中国メディアビジネス日記

中国のジャーナリズム学院、復旦大学新聞学院の元留学生が、中国ITやメディアビジネスをつらつら書きます

中国SNSを席巻する"遊べる"広告「H5」って何だ?

 

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 中国はまもなく春節を迎え、各社ともサービス普及の為のPRに奔走している。中国モバイルペイの二大巨頭の一つ、WeChatPayがお正月の「お年玉キャンペーン」で普及を成功させたように、お正月は中国IT企業にとって最も重要なマーケティングシーズンだと言っても過言ではない。
 そんな中、ここ数年中国のSNSを賑わせているのが、「H5広告」というインタラクティブな「遊べる」広告だ。「楽しくて」「シェアしたい」という、SNS時代ならではの特徴を持った新しい広告フォーマットは、中国のみならず、日本でもブレイクする可能性を秘めている。
 このH5広告がどんな広告なのか、まずはこちらの例をご覧いただきたい。
 
H5広告①「PUPUPULAの家族写真」

(リンク先から直接開けます)

pupupula.net

 ユーザーが広告を開くと、すぐにゲーム画面が出てくる。ユーザーはそこで様々なアイテムを使って自分だけの家族写真を作ることができる。作った家族写真はそのままSNSで共有することができる。
 春節らしいテーマに、流行のゆるい絵柄もさることながら、大きな特徴は、自分だけのデザインを作って共有できるところだろう。リンクを開けば、特に登録をする必要もなく好きな家族を作り、SNSで画像をシェアすることができる。シェアされた画像にはPUPULALAのロゴとQRコードが貼ってある、れっきとした広告だ。
、この広告は瞬く間にSNSでシェアが広がり、3日間で1PVを突破した。
 広告を制作したPUPUPULAはキッズ用品ブランドだが、知名度は低く、中国人でも恐らくこの広告を見るまで知らなかった人が多いはずだ。
 広告でありながらゲーム性があり、かつ皆でシェアして楽しめるH5広告は、時に通常の広告を遥かに超えるヒットを作り出すことができるのだ。
 

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H5広告って何?
 H5広告の「H5」とはHtml5の略である。特に決まった定義があるわけではないが、要は、Html5などの新しいプログラミング言語を使い、ゲームや縦型動画などのコンテンツを組み合わせ、スマホの縦型画面に最適化させて作ったインタラクティブな広告を指すことが多い。
 特徴としては
スマホでの視聴が前提
SNS内ブラウザで「開く→シェアする」まで完結
・アニメーションや動画を多く用いている
・ただ見るだけでなくユーザーから働きかける、インタラクティブな仕組みがある
SNSにシェアしたくなる要素がある
・画像に埋め込まれたQRコード等、アクセスがし易くなっている
 といったものが多い。
 
 中国の主要消費者層である若者は今や殆どテレビを見ない。彼らに訴求するためにはSNSで「バズる」ことは必要不可欠で、その流れの中で出てきたのが「遊んで楽しい」「シェアして楽しい」H5広告なのである。結果として、このような形式の広告はベンチャーから大手メーカーまで、あらゆる会社が活用する広告へと急成長した。
 
 H5広告の案例を、他にもいくつか取り上げてみる。
 
H5広告②「“時のはざま劇場」

 

 
 広告主のiQiyiは、多くのドラマを放映する中国版Netflixだ。H5広告では、没入感を活かしたドラマ的な広告を作ることもできる。
 劇場にいるのは、仕事に明け暮れ、一人娘をかわいがってあげられなかったお父さん、子育てに手いっぱいで自分の時間を作れなかったお母さん、夢を目指しつらい努力を続ける若い会社員の3人。忙しい彼らの癒しとなっているのはドラマだ。最後に動画は「人生では色々な役を演じないといけないけど、時には自分をいたわろう」とメッセージを送る。H5広告には縦型動画がしばしば登場するが、硬派なドラマでも上手く作れば、スマホで見る時に通常の映像以上に没入感を与えることが可能だ。
ストーリーもさることながら、劇場のデザインや、360度動画によって劇場の間を自由に動ける仕組みも、多くの人をのめり込ませる体験を作り出している。
 
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H5広告③「ごめんね。私ooで年越しするから会えないの
 
 
 このH5広告のように、SNSのタイムラインを模した遊び心のある広告もよく見るH5広告のフォーマットの一つだ。
 タイムラインに流れる広告のリンクを押すと、自分が旅行したい地域を一つ選択できる。すると、自分のアカウント名の入った、自分だけの「旅行記」タイムラインが自動生成される。今回はアメリカを選択したので、トランプの家に遊びに行ったり、テイラースウィフトに曲を送られたり、母校のハーバードのTEDで演説したりという旅行のタイムラインになった。
 自分の作ったタイムラインはSNSにシェアすることができる。その時のリンク名は「ごめんね。私アメリカで年越しするから会えないの」。更にサムネイルまで自分のアイコンになっているので、他の友達が気になって開けやすい仕組みになっている。もちろん、その画面から自分のタイムラインを作ることもできる。
 この投稿をWeChatにアップしたところ、さっそくコメントが集まり、友達も真似してアップし始めた。
 

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既に「誰でも作れる」H5広告、日本でもヒットするか?
 楽しくてシェアしやすくなるH5広告は、既に広告以外の分野にも生かされている。例えば報道機関が事件を没入感をもって伝える時に使ったり、政府機関が政策を楽しく伝える時に使うこともある(過去記事参照)。また見終わった後に直接ECサイトに遷移させるメーカーのCMや、寄付ページに遷移させるチャリティーページもある。
 更に、既にH5広告を作る為の無料ツールも多く登場している。その為、普通の学生も講演会のポスター替わりにH5を作るような状況になっているのだ。
 SNS時代に最適化された、高いエンゲージメント率と拡散力を持つ「H5広告」、日本でも普及するとタイムラインが面白くなるかもしれない。
 
☆今回上げた3つ以外の例が見たい方へ向けて、「中国の次世代広告"H5"案例10選」というnoteを作ってみました。広告だけでなく、チャリティー事業や報道といった事例もありますので、興味がある方はぜひこちらもご覧ください。

note.mu