中国メディアビジネス日記

中国のジャーナリズム学院、復旦大学新聞学院の元留学生が、中国ITやメディアビジネスをつらつら書きます

VR全人代に、国家主席とチャット〜中国の最先端「楽しいプロパガンダ」をまとめてみた

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2017人民日报两会特刊全息图--中国人大新闻--人民网人民日報の両会公式ページにはとにかくインフォグラフィックが多用されている) 

 

 最近日本でもやっと話題になり出してきた、中国のITの発展ぶり。その発展は中国メディアの報道、ひいては「宣伝」にも変化を及ぼしている。そんな変化が如実に反映されたのが今年3月の全人代である。
 最先端技術を積極的に用い、時には「新聞」の枠を突き破る表現で必死に「わかりやすく」伝えようとする中国メディアの努力からは、政治への関心低下が叫ばれる日本が学ぶべき点も多いのではないか。そんな問題意識も持ちながら全人代の「楽しいプロパガンダ」をまとめてみた。
 
政治家たちとチャットしよう!
 
 まずこれを見て欲しい。今年、中国の国会にあたる両会について中国SNSで話題になった報道だ。
 
 この「報道」が模しているのは、中国のほとんどのモバイルユーザーが使っているチャットアプリWeChatの画面だ。
 読者はページを開いたあと、本物のWeChatと同じようにグループの招待コードを入力する。すると習近平李克強を含んだ「チャットグループ」に招待されるのだ。政治家たちのアカウントとの会話は、あたかも自分のアカウントでしているかのように表現され、擬似タイムラインの投稿の中には、同じくこの投稿をシェアした自分の友達も登場人物の1人として「投稿」している。この「チャットグループ」や「タイムライン」に載っている内容は、全人代の決定事項や、愛国的な表現だ。これらが、チャットを模したポップな形式で流れて来る中で、読者はあたかも自分がコメントやチャットをしたかのような気分でこの「チャット」を眺めることができる。
 この奇抜な形式の「全人代」報道は、ネットユーザーたちに受け、多くのシェアを呼んだ。
 
 事実上の一党独裁体制にある共産党にとって、全人代は大衆に対して自らの支持を取り付ける重要な政治イベントである。だからこそこのような政治イベントの時には、メディアを駆使し、注目を集めようとする。例えば、今年秋に行われる第19回党大会に対しての注目度を高める為、娯楽番組の放送を自粛させ、党が推薦する愛国ドラマを流させようとする通達も出されている。
 
 とはいえ、単調に規制を強め、宣伝的な報道しただけでは、ただでさえ決定権の無い民衆が政治に対して興味を持ってくれるはずがない。だからこそ党の威信をかけて、あの手この手の報道スタイルによって、「観衆」の注目を惹こうとしているようだ。
 
 
アニメ、ライブ配信、VR...最新技術フル活用の政治報道
 
 国家から要請のあった「政治ショー」、他のメディアも全人代の場を借りて、ここぞとばかりに色々なトライアルをしている。
 
 例えば「360°総理記者会」と名付けられたこの記事では、IT技術を使って遊び心あふれる記事を量産する網易新聞と国務院が連携してアニメーションを用いたインタラクティブなニュースを制作した。ユーザーがスマートフォンでスライドすると、李克強を始めとした政治家たちの会見を「360度」眺めることができる。質問をタップすると、経済政策やPM2.5問題、社会イノベーションといった各分野についての政府の見解を政治家の音声付きで閲覧できる。
 
 もっとも、本物の全人代は実際に360°撮影がされている。全人代の閉会式から李克強の記者会見、記者会見の会場紹介動画まで、新華社通信によってVR動画が作られた。
 
 また、今年の開催期間の1日であった3月8日は、中国人にとってのバレンタインデー的な位置づけにもなっている国際女性デーである(中国にはこのように国連の記念日がイベントデーになっているケースがたまにある)が、広州のメディア広州参考は、女性記者の一日に関するビデオを制作している。 http://www.gzcankao.com/news/wx/detail?newsi=45450&time=1488989727500&from=timeline&isappinstalled=1。また、国際女性デーに便乗したIT企業もある。例えば中国のフードデリバリーアプリ饿了么は、女性記者たちに対してヘルシーなお弁当を差し入れとして「デリバリー」したが、実際に記者たちが写真を撮ってSNSにアップしたり記事にしていた。
 
 
「IT×遊び心」は政治報道に有効か?
 
 以上、様々なニュースを紹介してきたが、これらに共通するのが、スマートフォンに最適化させたスタイルで、遊び心のあるニュースのつくり方をしていることだ。
 え
 私が中国の大学のジャーナリズム学院で受けた授業の課題に、「二次元好きの若者に対して政治を伝えるためにアニメをどう用いるべきか」というものがあった。アニメやゲームから絶大な影響を受ける若者世代に対して、アニメや漫画をどう用いて宣伝するべきか、教師と生徒が一生懸命に考えているのだ。滑稽に見えるかもしれないが、それほど政治を伝えることに全力になっている訳だ。
 政治を「分かりやすく」伝えること、18歳選挙権が導入された日本でも重要になっているはずのその試みは学生団体などを主導に起きている。最近ではインフォグラフィックスも多く使われるようになってきたが、スマホに最適化されたもの、ハードな内容を「楽しさ」で注意を引くようなものは多くないだろう。もちろんこれらのニュースは日本では「プロパガンダ」に該当するものも多くそのままマネはできないだろうが、参考の余地は多くあると思う。
 
 さて、10月の党大会は果たしてどうなるだろうか。