独断で選ぶ!中国メディアビジネスの10大ニュース2017
年の瀬にこんにちは。中国留学から帰国し、中国リサーチを本格的に始めてから半年、独断と偏見で中国メディアビジネスの今年のトレンドをまとめてみました。
目次
1.Toutiao(今日头条)の躍進
2.IT大手のコンテンツ投資が加速
3.動画コンテンツビジネスの躍進
4.娯楽系メディアへの締め付けと「中国インターネットセキュリティ法」施行
5.政治、歴史系の映画とドラマが大ヒット
6.有名経済ニュースサイト、『財新』の有料化
7.知識課金、失速?
8.日本でのメディアビジネストレンド化
9.日本アニメの影響力減少
10.中国メディアビジネスの日本進出
1.Toutiao(今日头条)の躍進
巨額の資金調達とMusical.ly買収など、積極的な国際展開を進めたToutiaoは、中国国内のみならず、日本のIT界でも大きな注目を集めました。ToutiaoはGunosyのようなアグリゲーター系のニュースアプリですが、DAU7400万人という巨大な規模に加え、高いパーソナライズの技術力や「头条号」と呼ばれるメディアアカウントによるニュース配信等、革新的なモデルを多く作ってきました。更にTiktokや火山小视频など系列のショート動画アプリが大きく成長し、アプリ内SNS機能で中国版TwitterのWeiboと全面対決を仕掛けるなど、従来のニュースアプリの枠を超えるダイナミックな戦略を展開しています。Musical.lyとTiktokの存在感は日本でも大きく伸びており、来年以降の動向が更に注目されます
2.IT大手のコンテンツ投資が加速
動画コンテンツ制作者に対して2年で20億元以上の投資をしてきたToutiaoですが、コンテンツに巨額の投資をしているのはアリババやテンセントも同じ。特にテンセントは今後100億元をかけてコンテンツ育成することを宣言しており、実際にアニメや漫画ではテンセント漫画でヒット作を生み出す→アニメ化というエコシステムによって中国アニメ界のレベルを大きく上げています。またアリババも映画会社アリババピクチャーズを設立し、今年の双十一ではジャック・マー主演の映画を公開し、コンテンツ投資重視の姿勢を強調しています。伸び盛りのショート動画分野でも有力プラットフォームを持つToutiaoと新浪の争いが活発化中です。
3.動画コンテンツメーカーの躍進
上記のようなコンテンツ投資が活発化する中、恩恵を受けているのがコンテンツを制作する動画メディアです。特にショート動画領域では、プラットフォームによる差がつきにくいUCG(ユーザー制作型コンテンツ)やアグリゲーションからPCG(プロ制作型コンテンツ)へプラットフォーム側が力の入れ方を変えており、動画メディアには追い風が吹いています。
具体的には、ライフスタイル系のショート動画を展開する動画メディア「一条」と「二更」がそれぞれ4000万ドル、1億元という巨額の調達を受けています。中国のユーザーの動画への嗜好は多様化しつつあり、それぞれの領域を埋めるコンテンツメーカーが今後どれほど現れるか、中国コンテンツのレベルがどこまで上がるかは要注目です。特に、「一条」など、中国の動画メディアにはビジネスモデル的にも面白いので、来年も個人的にしっかりウォッチしたいですね。
4.娯楽系メディアへの締め付けと「中国インターネットセキュリティ法」施行
共産党の十九大があった今年は、今まで以上に政府のネットへの締め付けが目立つ1年でした。
具体的な事件としては、「毒舌電影」等娯楽系ニュース8つの突然の閉鎖、AcFanとBilibiliという2大二次元系動画サイトでの放映一時停止や海外コンテンツ削除、北京電影学院でのセクハラ事件への報道規制、国家卓球チームのボイコット事件と卓球選手のSNSでの「公開謝罪」、大規模なVPN規制の開始等。ネットの締め付けが激しいのは今に始まったことではないですが、規制が明らかに政治的なものから娯楽に及んできたことが大きな特徴でした。これらの事件からしばらく経ち、話題になることも減りましたが、民主活動家の事件は遠い世界の話だと感じる多くの人たちにとっても、身近なところで起きたこれらの事件は「リアル」にリアルな感情を感じさせたと言えます。
また、外資系企業にとっては「中国インターネットセキュリティ法」の施行も大きなニュースでした。データの国外持ち込みや個人情報の収集をより厳格に規定するこの法律を含め、影響力を強める中国インターネットの規制がどこまで進むのかはより重大な問題になりつつあります。
5.政治、歴史系の映画とドラマが大ヒット
今年はプロパガンダ色の強い政治系の作品でも大ヒットが頻発しました。
まずは、アクション映画『戦狼2』です。興行収入56億元で、中国の歴代興行記録を塗り替えた今作のストーリーは「正義感あふれる元人民解放軍特殊部隊のはぐれ者がアフリカでテロリストから邦人と現地人を救出する」というもの。人気アクション俳優呉京の監督映画ではありますが、舞台設定が一帯一路の影響を感じさせたり、「中国大使館は自国民を救出するがアメリカは見捨てる」「中国パスポートを出すとテロリストが攻撃をやめる」「テロリストのボスが欧州人の傭兵」といった描写が頻発する中々の愛国ぶりで、エンディングに出てきた中国のパスポートと「あなたが海外で危険に遭遇しても強大な祖国がついている」という言葉もその後流行しました。他にも反腐敗闘争を扱ったドラマ「人民の名義」も大ヒットしました。
一方で印象的だったのは、ドキュメンタリー映画として異例の1.6億元のヒットとなった、中国の慰安婦問題を扱った映画『二十二』。二十二人まで減ってしまった元慰安婦の方々の生活とインタビューを淡々と記録していく静かな映像は、決して派手さはないものの、彼女たちの「今」に正面から向き合った映画で、普段はプロパガンダ映画を見ないようなインテリ層の若者に大きな支持を得た映画となりました。
6.有名経済ニュースサイト、『財新』の有料化
ネットメディアで派手な資金調達が目立つ一方、伝統メディアの経営の苦しさをうかがわせるニュースが、有名経済誌『財新』の有料化でした。
『財新』は2009年に設立された比較的新しいメディアですが、数々の政治経済のスクープで名を馳せた代表の胡舒立を中心に実力派ジャーナリストたちが硬派な報道を展開し高い支持を得ていました。
2014年に習近平がメディアのオンライン化を推進する談話を出して以降、各メディアあはオンライン上に積極的に記事を公開してきました。その情勢はToutiaoやXimalayaといったアグリゲーターを台頭しやすくする一方、伝統メディアの財政は苦境にさらされています。ほとんどのメディアが無料で記事を公開する中、財新の1年300元、500元、データベース購入で2000元というのは決して安い値段ではありません。
胡舒立は課金化に対して「中国で有料市場を創出するのは非常に難しいこと。中国読者の無料記事を楽しめる幸福度が他のよりも高い」とコメント。プロパガンダから距離を置くジャーナリズムが生き残れるか、一つの正念場を迎えているといえます。
7.知識課金、失速?
2016年に一大ブームとなったネット起業の分野「知識課金」。Q&Aや教育コンテンツを課金式にするこの分野は、今年になって日本でもいくつかスタートアップが現れていたり、スタートアップ界での注目度が上がっていますが、特に今年後半になってから、失速を指摘する記事が増えてきました。
業界のトップを走る知乎の有料コンテンツ「ライブQ&A」は、2016年に10月に1800万元の売り上げを達成して以降下降トレンドにある他、リリース後42日で1000万ユーザーに使われ知識課金ブームの火付け役となった分答も、DAU4000人という衝撃の数字が出るほど勢いは落ちている。
各社に共通する問題はコンテンツへの「飽き」だ。分答の場合、アクセス数の多くをセレブユーザーへのゴシップを中心としたQ&Aに依存していたため、セレブへのネタが尽きたり、彼らのアカウントが停止する中でブームが一気に去ってしまった。また、知乎等よりUCGコンテンツや、真面目なコンテンツに強いアプリでも「買っても教育コンテンツを最後まで消費できない」などコンテンツ疲れ、学習挫折によってユーザーの離脱が受けています。
人気商売は厳しくなり、初期の熱気が落ちる中、各社に求められているのはユーザーをモチベーションをうまく持続するコミュニティづくりだといえます。持ち直しを図る各社の取り組みは、ブレイクを目指す日本の知識課金系スタートアップにとっていい先行事例となることでしょう。
8.日本でのメディアビジネストレンド化
「深圳スゴい」がプチ流行語になったように、今年は中国のITに日本の脚光が当たった1年になりました。モバイルペイやシェアバイク等、中国の後追いと言えるビジネスが日本で起きる中、メディア分野でも中国の流行りを「タイムマシン」式で取り込む流れが出てきています。
最も目立つのはライブ配信でしょう。SHOWROOMやLineライブ、メルカリのライブコマースが始まったことに加え、スタートアップも増えています。また、先述した知識課金もその一つです。今まで後追い気味だった日本での中国IT情報も充実しつつある今、日本にタイムマシンするための情報ニーズは更に高まっていくことが予想されます。
9.日本アニメの影響力減少
中国への注目度が上がったのはIT業界だけでなく、アニメ業界もそうでした。去年の「君の名は」の中国での大ヒットもあり、中国市場の重要性が広く言われていますが、中国での日本アニメの影響力は実際のところ下降トレンドです。
今月、けもフレのたつき監督も登壇した中国の「二次元サミット」で公開された統計によると、かつてダントツの人気だった日本アニメのシェアは4割まで減少。児童向けがメインだった中国アニメですが青年向けアニメのレベルアップも最近では著しいです。特にテンセントや快看漫画などウェブ漫画プラットフォームの充実もあり「漫画原作→アニメ」という日本にも似た勝ちパターンが出てきていること、今の子供たちが日本アニメより中国アニメを見て育っていることなど気がかりなことがたくさんあります。
そんな中、大手動画サイトテンセント動画での日本アニメの再生回数は年々減り続け、2017年に至っては日本の新規アニメの配信をほぼ止めてしまいました。
制作現場の疲弊と人材流出が盛んに言われる日本のアニメ業界。アニメファンとして、中国でのプレゼンス低下が終わりの始まりでないことを願うばかりです。
10.中国メディアビジネスの日本進出
最後のトレンドは、中国メディアビジネスの本格的な日本進出です。今年はLINEと提携したMobikeの日本進出など、中国ITの日本進出の記事も目立ちましたが、コンテンツ業界での中国企業進出は既に成功例も出続けてきます。特にゲーム業界においては、アズーンレーンやミラクルニキといった中国発ゲームが既に成功を収めているほか、荒野行動も順調に人気を上げているようです。そして大手プラットフォームではMusical.lyやTiktokのティーンエイジャーへの影響力がどんどん上がっています。
来年はゲーム分野に加え、Tiktok,Musical.lyを擁するToutiao、本国に4億ユーザーを持つ音声プラットフォームXimalaya Japanが積極的に施策を出してくる可能性があります。中国ITの日本進出元年となった2017年ですが、日本のIT企業はどう動くのでしょうか。
まとめは以上になります。今年は僕自身中国留学からの帰国、そして帰国後のITリサーチの本格的なスタート等、個人的にも変化が多い年でした。年内最後のブログはまとまりなく長くなってしまいましたが、来年はもっとコンスタントに分析を出していけるように頑張りますので、来年もよろしくお願いします…!