中国メディアビジネス日記

中国のジャーナリズム学院、復旦大学新聞学院の元留学生が、中国ITやメディアビジネスをつらつら書きます

中国映画・アニメ業界通信 2月2週~4週

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お久しぶりです。中々記事を更新できていなかったので、リハビリがてら仕事の合間にメモしている中国のアニメ・映画関連のニュースを週間でダイジェストで出していきます。
基本的にメモベースなので、間違っているところがあればご指摘お待ちしております。
(※筆者は現在大学を卒業し、映画業界にてアニメーションの日中共同制作に関わっています)
 
初回は春節後のニュースを中心に2月の中国の映画・アニメ業界をつらつら振り返ります。
 
 
①広電総局の新規定:ネットドラマの登記時に「脚本完成承諾書」が必須に
2/14、広電総局は2019年2月から始まっていたネットドラマの事前登記の必要資料に「脚本完成承諾書」を追加することを決定した。ここにはアニメも含まれる。
 
承諾書の具体的な内容としては、登記時点で脚本制作作業が既に終わっていることを示す文章にサインをするものとなっている。
 
これまでの重点ネットアニメの手続き方法(PRODUVER HUB 分部 悠介、本橋 たえ子、周 婷 中国における映像制作関連契約 より)
 
これまで、投資額が500万元を超えるネットドラマ・アニメは「重点ネットドラマ情報登記システム」に登記する必要があった。これまで必要だったのは「タイトル、制作関係会社、希望プラットフォーム、ジャンル、題材、1500字以上の内容説明及び300字以上の思想説明、制作予算」のみだった。
※知り合いの現地プロデューサー曰はく、2019年から事前の脚本審査を要求されるケースは多かったが、明確な通知がでていたわけではなかったという。
 
今回の通知によって事前審査が確定したとともに、実制作に入る前に脚本を確定させる必要が生じるようになり、制作スケジュールへの影響が懸念されている。
 
②『テレビドラマ・ネットドラマの創作生産管理に強化に関する通知』が公開される
2月6日、広電総局よりネットドラマの生産に関する新たな規制通知が出された。政府への撮影前申請時に既に脚本制作が終わっていなければならなくなった
また、一つのドラマは40回を超えるべきでないと提唱されたほか、30回以内で終わらせることが奨励されるようになった。(中国では以前から40回を超えるドラマが多かったが、再生回数稼ぎの為に尺が伸ばされているだけで質が下がっているとの批判が多かった)
これらに加え、作品完成後の審査時に制作コスト決算の作成及び俳優の報酬が示された契約書を広電総局のテレビ部門に提出しなければならなくなった。
 
③『ネット配信バラエティコンテンツの審査基準細則』が公開。94の基準が出される
2月21日、中国ネット視聴覚コンテンツサービス協会は、テンセント、マンゴーTV、iQiyi、YoukuCCTV等と連名で『ネット配信バラエティコンテンツの審査基準細則』を公開した。内容はパフォーマンスやトークショーリアリティ番組、子供向け番組等幅広いコンテンツに対して、出演者の言動、美術や文字等細かい領域の指導が入る。条例の全文は以下より。
 
 
④2019年、配給各社の7割が赤字に。WANDA、Huayiの赤字は30億元越え。
年明け後、上場企業各社が2019年度の財務予測を出しているが、映画業界各社の7割が赤字を計上している。
特に損失が大きいのがWANDA(万达影业)とHuayi(华谊兄弟)の2社だ。
予測33億元~45億元の損失となったWANDAの大きな理由は、買収した14の映画館やチケット予約サイト時光網(Mtime)等の暖簾の減損である。だがその一方で自社が主に投資・配給をした作品において、10億元を超えた『誤殺』を除いてヒット作は無かった。
39億元の損失となる見込みのHuayiも同じく長期投資や暖簾等の減損が理由となっているが、上海国際映画祭のオープニングムービーになる予定だった戦争映画の『八佰』が上映停止になるなど、配給映画の調子もよくはない。
それ以外の大手配給各社の成績も決して良くはない。
『流浪地球』等ヒット作を連発する北京文化は19~24億元の損失見込み。買収した各社の業績が振るわなかったことに加え、『流浪地球』以外の作品の興行が伸び悩んだ。
一方、『哪吒』『クレイジーエイリアン』等ヒット作の続いたエンライトは9億元~11億元の黒字となる見込み。投資・配給・宣伝それぞれで参加した作品の総興行収入が138億元となった。
  
武漢の実力派アニメ制作会社の今
 

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我是江小白より
 
武漢には、実力派3Dスタジオである两点一刻がある。中国の3Dアニメスタジオとしては珍しく、セルルック2Dのアニメーション強みとしており、シリーズアニメ『我是江小白』や、ゲーム『陰陽師』のゲーム内ムービーなどを制作する。
两点一刻では現状正式な仕事再開のめどはたっていないが、『哪吒』等、中国の多くのスタジオが使っているCGプロダクションマネジメントソフトである「CG Teamwork」等を活用し、リモートワークを始めている。とはいえ、動画等、複雑な作業の効率は大きく落ち込んでいる他、セキュリティ上リモートでは取り組めない領域も多い。
映画のみならず、配信でも『凹凸世界』等人気作が既に配信延期を告知している。
代表の王世勇は、今回の肺炎の蔓延が、収益化度外視でクオリティだけを求めてきた現在の中国アニメ界のターニングポイントになると考えている。そもそも2015年から活発化していたアニメ業界への投資は2019年には低調になっているが、更なる打撃を受けることは確実。これにより、様々な部門を抱えようとする現状の傾向から、より分業体制へと進んでいくのだろうと語った。
 
春節のセールストップ10のゲームが公表。テンセントの株価が大きく上がる
伽馬数据のデータによると、2020年1月のスマホゲームにおけるセールスは去年同時期より37.5%高く、春節期間だけで47.7億元に達した。
セールスのトップ2は『王者栄耀』『PUPG』とテンセントのゲームが占めた。なお『陰陽師』が7位、『NARUTO』が8位にランクインしている。
 
 
中国社会科学院が『2019年度ネット文学発展レポート』を公開
中国社会科学院が閲文集団のデータを元にまとめた『2019年度ネット文学発展レポート』によれば、現在のネット文学のユーザー数は4.55億人、ネット文学の作者は1755万人に上るという。そのうち95年以降生まれがアクティブユーザーに占める割合は54.5%、90年以降生まれが課金ユーザーに占める割合は66%だった。
ネット文学のジャンルは多様化が進み、現代劇、歴史、ゲーム等の大きなジャンルの他、二次元、スポーツ、SFも増加している。
(元々、中国のネット小説は長編歴史ファンタジー等、重厚かつ長大な作品が多く、そこでマネタイズしている作家も多い他、ドラマや漫画の重要な原作供給源となっている)
 
⑧北京等各都市が映画館に対して補助金を発表
現在も再開のめどが立っていない中国の映画館。春節とバレンタインで合わせて20部以上が上映延期となった。その損害額は120億元を超えるとも言われている。
映画館の未曾有の危機に対し、北京市をはじめ、いくつかの都市は援助措置を取り始めた。
北京市では、7月末まで、申請が通った企業の社会保険費用が免除となるほか、配信ドラマの審査期間の短縮や、北京で制作された映画の宣伝費や春節で取られる予定だった作品の制作費に対して一部の援助を決めている。